リーダーからのメッセージ

※本インタビューは「人材開発コンサルティング、マネジメントサービスセンター社」にて掲載頂いた対談記事を再掲しております。

Section 01

伊東:御社はアメリカ本社のCEOが女性ですし、ファイザー社との業務提携やアボット社の買収など、多様なものを取り入れるダイバーシティ経営を実践されていらっしゃいますね。女性の活躍支援については、どのような方針ですか。

隈部:実は今まで、性別をあまり意識していなかったというのが正直なところです。というのは、性別にこだわらず、そのポジションに対する適性があれば登用してきましたので、あえて区別していなかったのです。今回、実状を調べてみたところ、女性管理職比率は29%と、気がついたら自然に約30%になっていました。

伊東:特別なことをしないで30%というのはすごいですね! ビジネスへのインパクトは実感されていますか。

隈部:女性リーダーは決断力があり、人を束ねたり、巻き込むことが得意です。根回しに多くの時間を費やすより、ダイレクトにコミュニケーションをするのが女性リーダーです。組織の要所要所にそういうキーになる人がいることで、日本企業的な意思決定のステップを踏むことなく、フラットに決めてコンセンサスを得る環境をつくる役目を担ってくれていると思います。傾聴もうまく、皆と違う発想のコメントを言うのも女性が多いです。

伊東:リーダーの意思決定力は、ビジネス環境の変化が激しいだけにとても重要です。日本企業は決めるのに時間がかかり、ビジネスのチャンスを逸している状況です。御社では、タイミングよくスピーディに意思決定ができるリーダーと環境が、ビジネスを強くしているのですね。

隈部:なぜこういう環境が出来上がったのかを考えてみると、まず、当社は外資系企業ということもあり、女性が働きやすい環境が整っていました。そして、性別に関係なく適切な人材が登用されてきました。また、当社は、以前からあるマイラン製薬とアボット ジャパンのEPD医薬品事業部を前身とするマイランEPDからなりますが、マイラン製薬のほうは女性が多く、女性リーダーのロールモデルが大勢います。彼女たちが実質的なメンターの役割を果たしてくれて、女性リーダーが活躍する環境整備が進んでいったのだと思います。

Section 02

子育てをしていても
リーダーになれる組織に

隈部:ただ、さらに女性リーダーの輩出を進めるためには、まだハードルがあると捉えています。

多くの場合、出産や子育てが女性のキャリアに大きく影響し、人によっては仕事か家庭か、どちらかを軽くしなければならない時期があります。今後は、そういった方にも活躍していただくために、会社としても、各現場においても、出産・育児のためにお休みした人が戻ってきやすい体制をつくる必要があります。すでに時短勤務を導入しており、在宅勤務についても、トライアルを終え、近く導入予定です。 一方、周りの従業員の問題もあります。時短や在宅勤務の社員の仕事の負荷が他の人にかかると、不公平感が生じますので、受け入れる側が率先して支援できるようモチベーションを創成する必要があります。そのためには、やった分だけ認められるように、きちんと目標設定の中に含め、評価に反映することです。そうすれば上司も、面談の中で、どのようなサポートが必要かを話し合うことができます。

Section 03

リーダーの成功に必要な5つの要素

隈部:リーダーとしての資質がある優れた人であっても、中にはつぶれてしまう人がいます。これは、女性だからということではなく、男女関係なくいます。 原因は何かというと、リーダーとしての適性を持っていたとしても、本人のやる気やモチベーション、意思が反映されていないケースがあるのではないかと考えています。「あなたはリーダーの素質があるからやりなさい」と一方的にやらせるのではなく、本人の気持ちを見定める必要があります。本人に頑張りたい気持ちがあれば、やっていけるはずです。

また、その人のライフプランとキャリアのマッチングも大事です。会社や部門のサポート体制が整っているか、ロールモデルが身近でメンターの役割をしてあげているかという点も大きいでしょう。

まとめると、リーダーの成功に必要な要素は、①リーダーとしての適性、②本人のやる気・信念、③ライフプランとキャリアプランのマッチング、④会社や部門など周りのサポート体制・環境、⑤ロールモデル・メンターの存在の5つだと思います。 それと、管理職になりたくない理由として、「失敗することが怖いから」という人も多いので、失敗を許し、失敗から学ぶ環境をつくることも大切ですね。

Section 04

意欲と成長をサポートする
メンターが必要

伊東:大変参考になります。男女問わずというのはそのとおりです。男女によるリーダーシップの能力差はないと私も思います。先日行われた国際女性ビジネス会議でも、脳科学者の茂木さんが、能力に男女差はないが、リーダーシップ領域は不得意と思い込んでいるのは女性という話をしていました。「失敗するのが怖い」ということについて、興味深いデータがあります。当社が提携しているアメリカのDDI社の調査でも、女性は、能力があっても失敗を怖れて手を挙げない傾向があるという結果が出ています。なぜ女性は失敗を恐れると思いますか。

隈部:本人の性格にもよりますが、真面目な人がリーダーになることが多いので、「選ばれたからには、皆より優れていなければならない」「失敗してはいけない」と思い、それがストレスとプレッシャーになってしまうのではないでしょうか。

女性の登用を考えたとき、ポイントはそこだと思います。女性は、登用されると頑張りすぎてしまうのです。そこをうまくサポートし、悩みを聞いて「そのくらい大丈夫」と言ってあげて進めていくコミュニケーションやフィードバックが上司には求められます。

男の人の場合は、その後飲みに行きストレス解消する人もいますが、女性は誰にも相談できずに悩んでしまうことも多いと思います。

伊東:インフォーマルなコミュニケーションですね。女性は、インフォーマルな発散の場が少ないかもしれません。

隈部:だからこそ、ちょっとした相談ができるメンターのような人がいて、サポートしてあげるとよいと思います。当社は、メンター制度はありませんが、女性リーダーが多いので、彼女たちが自然にカバーしてくれています。

伊東:女性リーダーの数が多いというのは、そういう意味でもいいですね。

隈部:そうなんです。ただ、これはバランスだと思います。女性だけでもダメでしょう。女性上司の下に女性の部下がいるケースが多いのも、うまくいっている理由かもしれません。

Section 05

職種や地域特性に応じた支援策も

伊東:女性リーダーが自然にメンター的な役割を果たしているということですが、制度的なものは入れなくてよいとお考えですか。

隈部:本社はこのままでよいと思います。マイランはCEOが女性ですし、ファンクションヘッドや主要なポジションにも女性リーダーが活躍しています。社員も、性別で区別されたことはなく、女性であることが障害になっていると感じることはないはずです。

ただ、今回、グループに加わったマイランEPDは、営業と製造が中心で、そこでは女性リーダーが育っていません。なぜかというと、現場に「結婚、出産、子育てがある中で、転勤できるのか、シフトに入ってやっていけるのか」という意識があるためで、職種に合ったケアが必要です。今回、定年を迎え再雇用されたベテランMRが、子育て中の女性MRをバックアップする体制にしてはどうかという提案があり、よい案だなと考えています。

また、当社は、福井県に大きな工場がありますが、福井は女性就業率が76%と全国トップです。しかし、土地柄もあり、家庭とのバランスをとった働き方を望む傾向があります。それではリーダーは育ちませんので、福井県がお茶の水女子大学と連携して行っている「未来きらりプログラム」に、選抜した女性社員を参加させています。女性の活躍を推進するための2年間のワークショップで、大学教授が講義をしたり、自分たちでプロジェクトを回す経験を積んだりします。当社でも卒業生の中から70人を束ねるシニアリーダーが誕生するなど、女性リーダーが育ってきています。

本人の価値観を尊重しながら、子育て中は小さなチャレンジを少しずつ重ねてもらい、子育ての目処がたったころに「リーダーにならないか」と声を掛けると、「やってみたい」という気持ちになる人もいます。ライフプランに合わせた形でサポートすることが大事です。

伊東:福井県は女性の就業率が高く、なおかつ、大家族で住んでいるので、子育てを家族全員で手伝っていると聞いたことがあります。本人に意欲があれば、活躍しやすい環境だと思います。

伊東:私の思い込みもあるかもしれませんが、工場などでは、男性上司が女性に偏見を持っていることもあるのではないでしょうか。

隈部:工場は仕事の特性上、力仕事など、女性には難しい仕事がないわけではありません。ただ、今の工場長はよく、「実は女性のほうが、陰で皆を束ねているんだよ」という話をします。女性が上司をうまくフォローしていることが分かっていて、「部下」というよりも「仲間」という意識が強く、採用する際にも、7~8人で面接を行い、価値観を共有できる人を採用します。

伊東:そうすると採用の失敗もなくなり、定着率も上がり、成果も上がるわけですね。

Section 06

プロジェクトへの参加により、リーダーシップを鍛える

伊東:先ほど、適性とやる気の両方が大事というお話がありましたが、御社ではどうやって適性ややる気を見極めていますか。

隈部:まず、毎年の評価によって、目標をやり切れるか、成果はどうかを把握し、上司と部下がコミュニケーションをとって、ステップアップしていけるかを見極めます。 それに加えて、さまざまなプロジェクトに参加させる中で、リーダーシップを高め、リーダーとしてのやりがいに気づかせます。特に、組織横断的なプロジェクトやタスクフォース、グローバルなプロジェクトに参加させると、教え、教えられる双方の学びの場ができます。

伊東:会社が成長していると、そういう機会が多いですね。

隈部:人が伸びれば会社も成長します。そのために皆で育てていくことが大事です。どんな会社も与える機会はあるはずで、そこに気が付くかどうかだと思います。

伊東:御社は、年功的な昇進・昇格はまったくないですよね。抜擢はどのくらいのタイミングで行いますか。

隈部:仕事ができて能力があれば、年齢は関係ありません。30代後半の女性がグローバル直轄の部長として頑張っている例もあります。本人がやりたいと言ってボールを受け取ったら、それを落とさないようにどうサポートしてあげるかが大事だと考えています。

Section 07

ステップバックもキャリアの一つ

隈部:私の部下に、あるグループを任されている女性がいました。彼女は、2人目のお子さんを出産して育休から早めに復職したのですが、あるとき、2人ともインフルエンザで熱を出したのに、会社を休めないことがありました。彼女は、「こんなひどい親はいない。自分は母親失格かも」と自分を責めました。

その日は私の判断で帰ってもらい、後日、他のグループの部長と本人と話し合い、そのグループをその部長の下に付けることにしました。彼女にとってはステップバックになりますが、本人は、肩の荷が下りたと喜びました。

数年後、そのグループの部長が退職することになり、その女性に「あなたに上がってもらうか、外から採用するか」と聞くと、「やらせてください」と言いました、今では、以前より大きな二つのグループのリーダーとして活躍しています。

このように、いったんステップバックすることで、自分の働き方やライフプランが見えるようになり、そこで自信を取り戻すことができる場合があります。

伊東:ステップバックも時には大事なのですね。そこで無理をすると、自信をなくし、次のチャンスの芽を摘んでしまう可能性があります。

隈部:ええ。キャリアには多方向あり、縦のキャリアだけでなく、横に移るキャリア、専門性を掘り下げるキャリア、一歩下がって少しスローダウンするキャリアもあります。違う環境で自分の新しい可能性にチャレンジするのも、一つのキャリアチョイスです。

伊東:御社は、いろいろな働き方をしているロールモデルがたくさんいるので、ステレオタイプな考え方にならないのもいいですね。

隈部:そうですね。いろいろな働き方をしている人がいるので、男性もサポートする意識を持っています。多様なキャリアを認める風土ができており、私のチームでダイバーシティについて話していたときに、「もう、当社は“脱ダイバーシティ”でいいのではないか」という意見が出たほどです。

Section 08

ダイバーシティが
当たり前に実現している会社

伊東:隈部さんご自身のキャリアについてもお聞かせいただけますか。

隈部:私は、転職をすることでキャリアを築いてきました。

初めに就職したのは日系企業ですが、外資を買収した会社です。均等法施行からまだ間がなく、お茶くみや灰皿洗いもしましたが、女性を起用する風土があり、プロジェクトにもどんどん入れられました。人前で話すのがうまくなかったので、上司に「人の前で話す勉強をしてこい」と言われ、3年間、短大の講師もしました。

アジア6カ国の人事を統括する担当になりましたが、家庭の事情で長期の海外出張ができなくなり、仕事は楽しかったのですが、日本だけに軸足を移そうと、外資系IT企業に転職しました。ステップバックに見えるかもしれませんが、当時は家庭が一番大事でした。 その外資系IT企業は女性の活用も進んでいて、成長の機会に恵まれました。働きがいのある会社として表彰される企業で、どうすれば働きやすい環境をつくれるかを追求することができました。ロールモデルもいて、私の大きな財産になっています。

また、3つめに転職した企業のCEOに、よく、「くまちゃん、まずは経験して、成果を出せ! そうしたら頑張れる。タイトルは後から付いてくるから」と言われました。

伊東:素晴らしいCEOですね。よい上司はちゃんと機会を与え、結果を求める。そして、次のチャンスを与えます。

隈部:そうですね。そして、私のキャリアの集大成として、社会貢献性の高い、命にかかわる仕事に就きたいと、今の会社を選びました。どういった仕事をすると、自分のキャリアに役に立ち、生活とのバランスがとれるかといったことを考えながら、キャリアを選んできました。その時々に機会に恵まれ、支えてくれる方もいたのは、ラッキーでした。

伊東:感動しました! 隈部さんのお話を聞いていて思ったのですが、キャリアを積むことに対して本当に真剣な人は、女性に多い気がします。

隈部:男性は、終身雇用の下、年功序列的に上がっていく意識がまだまだ残っているのかもしれません。

伊東:いろいろな会社の方からお話を伺ってきましたが、御社はダイバーシティが会社の中で特別のことではなく普通に行われている会社という印象を受けました。ジェンダーダイバーシティを組織の中で意識して取り上げなくても、それがあたり前のこととして進んでいる。まさに、先ほどおっしゃった「脱ダイバーシティ」ですね。それと、隈部さんがマイランの日本HRの代表でいらっしゃるからこそ、今の環境を作り出している要因だと感じました。隈部さんのリーダーシップが、御社を「強くてよい会社」にしているのだと、お話をお聞きして、思いました。本日は、私たちをインスパイアしてくださる素敵なお話をありがとうございました。